お父さんは…

以前にも書きましたが、僕の子供時代は高度成長期まっただ中でした。ウルトラセブンが身近に感じるのはその中に出てくる家庭が未来の夢も含んだ「ぼくんち」そのものだったからかもしれません。幸せなイメージのその時代父の勤め先はエルモ社という今はない8ミリ映画の映写機・撮影機メーカでした。エルモ社の本社は名古屋でブラザーのすぐ近く父が就職先を考える時もブラザーとエルモを迷ったのだそうです。ミシンから初めて今はプリンター複合機でも有名なブラザーに比べエルモは家庭用ビデオカメラの普及でほとんど知名度のない会社になってしまいました。家庭用ビデオカメラが普及し始めエルモ社の業績が落ち込んだ頃、父は仲良くし始めていた社長に希望退職を問われたそうです。そのときの社長さんはお父さんの初代社長に請われて工学博士でいる大学をやめ社長さんになった純粋な方のようで、退職の返答をした父に退職した後も友人つきあいを望んだそうですが、父はそれに対しかなり否定的な言葉を残して別れたそうです。高校生だった僕はその話を聞き父に対する不信かを初めて抱きました。その社長さんは一通りの人員整理をすませたのち自殺したと聞
いています。
そのエルモ社の文字を目にする時、僕は今でも父を信じ希望を持っていたそのころの気持ちが戻ってきます。社会の景況が父の職業が子供の生い立ち、こころにこれほど影を落としてしまう事を今更ながらしみじみと思うのです。